重力と身体の関係から考えるトレーニング方法

筋肉の負荷調節(伸縮)と第三の梃子構造

 

1、重力下での動作に於ける筋肉の負荷調節

 

動作についての考察は総合的に様々な事象、因子が重なり合い非常に複雑です。

今回は日常生活動作やスポーツ競技動作に於ける特定の筋肉群の活動(負荷の調節)や身体の構造や仕組みについて少し見て行きましょう。

多少踏み込んだ内容に成りますがお付き合い頂き今後のトレーニングのご参考にして頂けましたらたら幸いです。

腿裏のハムストリングスと言う筋肉群が有ります。歩行動作や走動作、スポーツ競技動作等で下半身の主動筋(動作や出力の中心と成る筋肉)としたい立位で股関節を伸展(伸ばす)させる筋肉群の一つです。

今回はイメージが湧き易いようにハムストリングスのジャンプ動作に於ける活動を例に見て行きます。

大きくジャンプする様な場合通常は地面反力を得る為に股関節を屈曲(曲げる)させ身体を地面方向に一旦沈み込ませます(垂直方向にジャンプする様な場合は殿筋群が強く使われたり、良くない動作フォームでは膝を大きく屈曲させ比較的サイズが小さく出力の小さい腿前の大腿四頭筋等が強く使われますが動作による筋肉の使われ方の違いや動作の良し悪しは今回のテーマではございませんのでご説明を控えます)。

股関節が屈曲する際、腿裏のハムストリングスは伸ばされて行きます(伸張性収縮=伸ばされながら短縮する為のエネルギーを貯め込む状態/筋肉は伸ばされて短縮する時に力を発揮する事が知られています=筋肉をバネとイメージして見て下さい)。

地面方向に沈み込む(=落下する)身体には重力が働いていますので瞬間動作とは言え重力加速度の関係で沈み込むスピードは漸増(徐々に増える)し沈み込む力の積(=ハムストリングスを伸ばす為に働く力)も漸増して行きます。

伸ばされてエネルギーを貯め込んだハムストリングスを短縮(短縮性収縮=短縮しながらエネルギーを放出する状態)させジャンプ動作に転じる訳ですが身体を地面(地球)方向に押え付けていた大きな抵抗(負荷)が一機に外れる為=ハムストリングスを伸ばす方向に働いている力が外れる為(負荷の外れ具合も動作の良し悪しに大きく影響されますがお話が複雑に成りますのでこの部分もご説明を控えます)、ハムストリングスの短縮は短時間に急激な加速を伴って行われます。

ハムストリングスが急激に加速を伴って短縮する際にジャンプに於けるパワー(身体が移動するエネルギー)が発揮されます。

*この時の抵抗(負荷)の外れ方が小さいとハムストリングスの短縮速度は遅く成る為加速度(スピードの積)を得る事が出来ず力(パワー)が発揮されません。

この加速度(スピード)を利用してパワーを発揮すると言う動作が重力下での人間の自然な力の発揮の仕方、様式の基本に成ります。

 

2、関節の第三の梃子構造

 

人体の関節は通常三種類の梃子構造に分類されます。

 第一の梃子(シーソーの様な構造の梃子)、第二の梃子(重い岩の下に長い棒を入れて持ち上げる時の様な力の発揮に適した構造の梃子=岩⦅作用点⦆を速い速度で動かす事には不利な構造)、第三の梃子(力点と支点が近く力の発揮には不利で向かないが釣り竿や鞭の様に先端⦅作用点⦆を速く動かす事には有利な構造の梃子)の三種類です。

興味深い事に日常生活動作やスポーツ競技動作に係わる関節の多くは力の発揮に不利な第三の梃子構造です。

直立二足歩行の人類が立位で動作する為には前提として倒れないでバランスを調節する能力が必要に成ります。

重力(1G)が働いている地球上で立位で倒れない様に繊細にバランスを調節する為には相応の動作スピードが要求されます。

力の発揮に有利な第二の梃子構造の骨格(関節)では動き(足の振出等)が遅くバランスの調節には不向きで有る事はご想像して頂けるかと思います(生物として食物連鎖を生き抜く進化の過程でスピードを出す事に有利な身体構造を選択、進化したと言う説も有る様です)。

人間が大きな力(パワー)を発揮する為にはスピード発揮に有利な第三の梃子構造の特性を生かしてパワーを生み出すと言う考え方を採用する事が有利で有り、手足等身体の先端の動きの速さや身体の移動速度、動作スピードを高める事で如何にパワーを向上させる事が出来るかが日常生活動作を楽にしたりスポーツ競技のパフォーマンスを向上させる為のトレーニングに於ける一つの大きなテーマ、方向性に成るかと思います。

*第三の梃子はどの様に工夫しても第二の梃子の様に使う事は困難ですし本来の構造を無視した使い方をする事で梃子自体を壊す事にも繋がり兼ねない事はイメージして頂けるかと思います。

*トップアスリートの方で力ずくで強引な動作を多用する方は余り見かけません。スピードとタイミングやリズム、そして抽象的ですが動きの切れやしなやかさが動作に多く表現されている方が多い様に感じます。

*人により骨の長さや関節から筋肉の付着部迄の距離に違いが有ります(梃子の長さや力点から支点迄の距離に違いが有ります)ので同じ第三の梃子でも特性がそれぞれ異なります。そこにその方の動作の得手不得手、個性が生まれますが動作を決定する因子は他にも多くございますのでこれ一つを取ってその方の動作の全て、限界が決定される訳ではございません。

 

3、トレーニングの方法

 

皆さんお話が繋がって来ましたでしょうか?

トレーニングでの鍵は筋肉への負荷の調節(伸縮)のさせ方です(伸張時には負荷を漸増させ短縮時には負荷を漸減させる)。

冒頭のハムストリングスのご説明でお伝えした様な筋肉の負荷調節の様式をトレーニングで上手に再現出来ますと、関節の第三の梃子構造の特性が生かされながらパワーが発揮される事に成ります。

非常に興味深い事なのですがその様な負荷調節の様式を再現して上手にトレーニングが出来ますとパワーが発揮されるばかりではなく筋肉の柔軟性向上やストレスの解除、血流の促進、自律神経のバランス調整、神経筋制御機能改善等身体に有益な事が同時に様々起こります。

身体は骨や靭帯、筋肉や筋膜、皮膚等様々な組織で繋がり連動しています。筋肉の負荷調節も上半身と下半身で同様な様式でないとタイミングを合わせる事が出来ずに連動させる事が困難に成ってしまいますので上半身やその他の筋肉に於いても基本的に筋肉の負荷調節(伸縮)のさせ方は同様です。

更に動作を連続した動きとして捉えますと伸張性収縮と短縮性収縮を上手に繋ぎ合わせてサイクリングさせる(繰り返せる)事も重要なポイントに成って来ます(身体を如何にリラックスさせる事が出来るかが鍵と成ります)。

第三の梃子の力点(釣り竿や鞭に例えますと手で掴んで振る柄の部分)は人体では体幹部の肩甲骨側や骨盤側、胸腰椎移行部(背骨)側の部分です。

体幹部側から出力し(=動き始め)先端の手足を加速させたり身体の移動速度や動作スピードを高める為のトレーニングには相応の技術(身体操作法)や正しい動作フォームを採る為の身体の柔軟性、独自のトレーニング理論に対する理解や知識が必要と成ります。

自重やバーベル、ダンベル等を利用したトレーニングでは難しく難解な部分も多い為、当施設では特殊な設計のマシーンに動作を誘導して貰う形で上記の様なトレーニングをトップアスリートの方から小学生やご高齢の方迄何方でも取り組み易い容易な物としています。