静岡県での昇段トーナメント試合を制し黒帯と成った中学2年生のT・G君。
彼が所属し私が指導させて頂いている山梨県甲斐市の道場では黒帯に昇段した者は団体の上級者が鎬を削るトップカテゴリーのエキスパートクラスへ挑戦する流れが出来つつ有りました。
T・G君もその流れに乗りエキスパートクラスの試合へ出場を決めました。
今年の全国大会エキスパートクラスの試合迄後4ヶ月程。
エキスパートクラスの試合では通常の試合とは違い上級者用に試合ルールが大きく変更される事に成りますがT・G君自身はエキスパートクラスの試合の技術練習を未だ経験していませんでした。
エキスパートクラスに出場する様な選手は週6日以上の練習で空手どっぷりの選手もいる中、T・G君はと言えば週1日から良くても2日程度。どちらかと言えば学校の勉強や部活動、塾に重きを置くタイプ。 山梨県内有数の進学校の受験合格を目指しています。
私の見立てでは現状のままではどう見ても他のエキスパートクラス出場選手達には太刀打ち出来ず試合に成らないだろうと予想されました。
試合用の技術練習をしたとしても緊張体質のT・G君が短期間の練習で試合当日実行に移せるかどうか…
私が指導させて頂いている長野県茅野市の常設道場では4Dモーショントレーニングマシーンが導入され道場生達のトレーニングも既に始まっていました。
現時点で試合当日実行に移せる可能性の低い競技の技術練習は最小限に留め、トレーニングで身体能力を向上させる取り組みの方向へシフトする事に私達は決めました。
毎週日曜日週1回2時間のトレーニングにT・G君は山梨県から長野県迄列車に乗って通って来ました。
受験を再来年に控えているT・G君は行き帰りの列車の中でも勉強です。
T・G君の取り組みに対する真面目さも有り4ヶ月間の限られた時間の中で中学2年生の彼で出来るトレーニングは全て行いました。
果たして試合結果は…
6人のトーナメントでT・G君は決勝戦まで進出してくれました。
私もその場に居たのですが、準決勝では流れる様な動きで相手に何もさせずに完封してくれました。
試合前、対戦相手は全国的にも無名なT・G君に対し「T・Gは黒帯に成ったばかりでエキスパートクラスにエントリーなんかして舐めているのか」と周囲に漏らしていたそうです。
決勝戦は流石に何も出来ずに敗退してしまいました。
当たり前ですがどの様な競技でも競技の技術練習が不足していて勝てる程甘くは有りません。
ただ今回はそうせざるを得ない状況が有りました。
試合後のT・G君の顔には自分の出来る事をやり切った満足感と謙虚な中にも自信が表れていました。
「先生あれは何だったんでしょう?」
準決勝の自分の試合を振り返ってのT・G君の感想です。
身体が無意識に勝手に反応して動いていた事が不思議で仕方が無かった様です。
「良く動いていたね(笑み)」とだけ返した私。
本人は自分の変化に気が付いているのでそれ以上を伝える必要性は感じませんでした。
身体の緊張が取れ、また、歪みやアライメントが矯正された事に因り動作前に働く無意識の脳の働きと動作の関係が改善された結果でしょう(予備動作が少なく反射的に⦅最小限の意識で⦆動ける様に成った人間には相手も準備したり対処する事が難しく成るものです)。
受験に向けて2人のトレーニングでの取り組みも終了しT・G君の空手の稽古出席日数も更に少なく成りました。
T・G君にはT・G君成りの空手に対する取り組みのスタンスが有ります。
4ヶ月間の短い取り組みでしたがT・G君は自分成りに何かを学んだ様でした。